エンジニアがこの先生きのこるためのカンファレンス2026
通常セッション(20分)

「好き」を専門職に変える行動指針 ── アクセシビリティスペシャリストの実践

masuP9 桝田 草一 masuP9
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発表概要

アクセシビリティスペシャリストという職種は、日本ではまだ十分に確立されているとは言えません。デジタルプロダクトを、障害の有無にかかわらず使えるようにする専門家です。日本では職種としての定義や求人も多くはありません。それでも筆者は、フロントエンドエンジニアからUIデザイナーを経て、もともと関心のあったアクセシビリティの領域で活動を続けてきました。

アクセシビリティは社会的に「正しい」とされやすい領域です。しかし、専門職として成立するためには、正しさを超えた価値の提示が必要でした。「好き」や「正しさ」だけでは、組織の中で役割は自然には広がりません。

本セッションでは、好きな領域を専門職として形にしていく中で、どのように動き方を変えてきたのかを共有します。手元の品質改善から始まり、組織の基準づくりや戦略レイヤーへと関わり方が広がっていった過程。その中で見えてきた判断の軸や、もっと早く意識しておけばよかったと感じている点。そして、作れることが価値の源泉であるがゆえに、次のフェーズへ進むことに生まれる葛藤についても触れます。

好きという主観から出発し、それを組織の中で価値として扱ってもらえる形へと広げていく。その試行錯誤のログをもとに、再現可能な行動のヒントをお伝えします。

発表の詳細

本セッションは3つのパートで構成します。

第1パートでは、「好き」を専門職に近づけていく中で見えてきた視点を整理します。アクセシビリティの知識や熱意だけではキャリアとしては成立しにくい現状を共有したうえで、どのような価値の出し方が求められるのかを具体的にお話しします。土台となる開発スキル、組織にとっての意味づけ、そして信頼の積み重ね。好きという動機を出発点に、アクセシビリティの価値を組織にとって意味のある形へと翻訳していく考え方を整理します。

第2パートでは、筆者自身の実践の道筋を紹介します。初期は手元の品質向上に集中し、開発者として信頼を得ることに力を注ぎました。その後、属人的なレビューから脱却し、組織の基準策定や教育の仕組みづくりへと関わり方が変わっていきます。さらに、一人では解けない規模の課題を扱うようになり、複数チームへのアドバイザリーや戦略立案へと関わる中で、品質と開発スピードの両立といった、より広い視点が求められるようになりました。扱う課題のスケールが変わることで、自然と動き方も更新されていきました。

第3パートでは、今後の展望に触れます。アクセシビリティの社会的重要性は広く認識されるようになり、法制度の変化によって組織内での位置づけも変わりつつあります。一方で、AIの進化は実践のあり方そのものを更新しています。こうした環境変化の中で、専門職としてどのように価値を発揮していくのか。確立途上の領域だからこそ、動き方次第で役割を広げられる余地があります。その可能性を考えます。

これらのパートを通じて、好きという動機から出発し、価値のレイヤーを更新し続けてきた動き方を整理します。

想定する聴衆とその人たちが得られるもの

想定する聴衆は、自分の「好き」や専門性の芽を持ちながらも、それをキャリアの軸にできるのか迷っている方です。マネジメント以外の道を模索している方や、特定領域を強みにしたいと考えている方に聞いてほしいセッションです。

得られるもの:

  • 「好き」を専門職として育てていくための動き方
  • 手元の品質改善から、組織の基準策定・戦略立案へと価値を広げていった実践の道筋
  • キャリアを最適化ではなく探索として捉え、状況に応じてチューニングしていく視点

なぜこのトピックについて話したいのか

アクセシビリティの社会的重要性は広く認識されるようになり、法制度の変化によって組織内での位置づけも変わりつつあります。一方で、AIの進化は実践のあり方そのものを更新しています。

しかし、その重要性や正しさが認識されることと、専門職として成立することは別の問題です。アクセシビリティは社会的に「正しい」とされやすい領域ですが、専門職として成立するためには、正しさを超えた価値の提示が必要でした。

私はフロントエンドエンジニア、UIデザイナーを経て、アクセシビリティ専門職を組織の中で形にしてきました。完成された戦略が最初からあったわけではありません。扱う課題のスケールを変え、フットワーク軽く関わりを広げ、仲間を探しながら、動き方を更新してきました。その探索の中で見えてきた判断の軸や動き方には、再現可能なパターンがあると感じています。

アクセシビリティに限らず、「好き」や善意を出発点にした専門性を、どのように組織の中で成立させていくのか。その問いに対する一つの実践ログとして、本セッションを共有します。