樋口 礼人
ay4toh5i
■ 発表カテゴリ
・ Case Studies: 実際の導入事例や失敗談
・ Architecture: SREの視点からのシステム設計
■ 発表概要(400字程度)
Sansanの経理DXサービス「Bill One」では、2023年に外部IDaaSからAmazon Cognitoと自前OIDCサーバーを組み合わせた認証基盤へ無停止移行を行い、インフラコストを大幅に削減しました。
この取り組みは急速なユーザー増加によって顕在化したコスト課題の解決を出発点としましたが、最終的には「セキュリティと利便性」を両立する認証基盤として全社展開を進めるプロジェクトへと発展しています。AI契約データベース「Contract One」への導入を皮切りに、今後はSansan全体の社内標準として広がっていく予定です。
本発表では、当時40万人規模のユーザーを抱える環境での無停止でのシステム移行のノウハウ、少数体制でも運用可能なシステム構成とコスト最適化の工夫、さらに横展開での課題や社内標準化に向けたロードマップを共有します。
■ 発表の詳細(1000字程度)
○ 少数精鋭で運用可能な認証基盤のシステム構成
Bill Oneの認証基盤は、開発チーム3〜4名という少人数体制で開発・運用を行ってきました。限られたリソースでも高い信頼性を維持するため、ECS FargateやAurora Serverless v2、ElastiCache Serverlessなどのマネージドサービスを積極的に活用し、運用負荷を最小化しました。特にAurora ServerlessのオートスケーリングはBill One特有の「月末月初にアクセスが集中する」という特性への対応で非常に役立っています。また、Aurora Serverlessではクエリのパフォーマンスがコストに直結しますが、運用開始後もクエリの改善を継続的に行うことでコストの最適化を実践しています。
○ 無停止で基盤移行をするためのノウハウ
認証基盤の移行は、サービス影響を最小限に抑えるため「無停止」で実施しました。
そのために重要だったのは以下の点です。
この仕組みにより、ユーザー体験を損なうことなく基盤の全面切替に成功しました。
○ 認証基盤内製化の成果と課題
○ 社内標準化に向けたロードマップ
従来、Sansanの各プロダクトは独自に認証基盤を構築しており、セキュリティレベルやUXにばらつきがありました。今回の内製認証基盤を社内標準とすることで、以下のメリットを目指しています。
認証基盤は一度作ると塩漬けにされがちですが、実際には攻撃の巧妙化や新しい要件に日々対応する必要があります。本取り組みを通じ、認証を「維持コストのかかる仕組み」ではなく「セキュリティと利便性を両立する社内プラットフォーム」へと進化させていきます。
■ 対象聴衆とその人たちが得られるもの
対象聴衆
得られるもの
■ なぜこのトピックについて話したいのか(モチベーション)
認証・認可は多くのWebサービスにとって欠かせない仕組みでありながら、“作って終わり” になりがちです。しかし実際には、セキュリティ・利便性・コストのすべてに継続的な改善が求められる領域です。
Bill Oneの認証基盤の内製化に深く関わる中で多くの苦労や工夫を経験し、そこから得た知見を「成功体験」だけでなく「失敗や学び」も含めて共有し、Webサービスがより良い仕組みを整えていく上での参考になればと思っています。
また、この取り組みは単なるプロダクト内の改善にとどまらず、社内の複数プロダクトへの横展開・ひいては社内標準へと発展しようとしています。SREの視点から見れば、信頼性・コスト・運用性が交錯する非常に挑戦的な事例であり、「Challenge SRE!」という本カンファレンスのテーマにも直結しています。
この発表を通じて、認証という地味だが本質的に重い領域に挑戦する仲間に、新しい視点と実践的な知見を提供したいと考えています。