生成AIが生み出す、SREとプロダクトチームの対話のきっかけ by Ryohei Fuda

SRE Kaigi 2026
セッション(30分)

生成AIが生み出す、SREとプロダクトチームの対話のきっかけ

Ryohei Fuda
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■ 発表カテゴリ
・Future: SREの未来と新しいトレンド

■ 発表概要(400字程度)
システムの信頼性を担保するには、SREだけでなくプロダクトチームを含めた全体での一貫した基準でインフラを運用することが重要です。組織が小規模の際は特定の詳しい人がいれば一貫性を保てることも多いですが、規模が拡大するとそれも難しくなり、明文化が必要になります。まさにその過渡期にいるGENDAにおいても、SREの責務としてインフラガイドラインを作成しました。しかし「プロダクトチームに確認依頼して終わり」では意味がなく、継続性を保つことが重要です。そこで考えたのが、SREが各プロダクトのインフラ状況を正しく把握し、プロダクトチームとより具体的な議論ができるようにすることです。
例えば、生成AIを用いて事前に調査を行い詳細な現状把握を行えるようにした結果、プロダクトチームとの対話の質が向上し、一方的な「押し付け」ではなく協働で改善を進められるようになりました。本セッションでは、生成AIを活用してSREの情報収集効率を向上させ、プロダクトチームとの効果的なコミュニケーションを実現した実践例をお話しします。

■ 発表の詳細(1000字程度)
過去の経験から、ガイドラインの作成後にプロダクトチームに依頼して状態を埋めてもらっても、内容が実態と合っている保証もなく本当に活用できているのかと疑問に思うことが少なくありませんでした。そこで、SREがイニシアチブを取りつつも、プロダクトチームにオーナシップをもってもらうための効率的に議論する方法を模索しました。

議論の質を変えるための工夫
まず、AWSを使っているシステムであれば、会話の前にAmazon Q Developerを活用して、ガイドライン適合状況を事前に評価することにしました。これにより、各環境のリソース状況を確認して具体的な情報を網羅的に把握できるようにしました。
GENDAのAWS環境はマルチOrganizationかつマルチアカウントであり、SREが全環境の詳細情報を確認・理解するにはコストが大きすぎますし、網羅性にも不安があり、非現実的でした。しかし生成AIを活用することで、議論に必要な情報を非常に低コストで収集できます。これにより実態に即した議論ができるようになり「確認してください」からより具体的かつ網羅的な対話を実現することができました。
そして、ポイントはオーナーシップはあくまでプロダクトチームにあることです。SREはプロダクトチームが状況を把握するためのサポートを行うという姿勢で活動するようにしていますが、情報基盤を整備することでSREが「待つ」のではなくイニシアチブを持って進めることができるようになりました。

信頼を得るための工夫
GENDAのSREは「監査して指摘する」関係ではなく「一緒に改善する」パートナーになることを目指しています。SREがいきなり「ガイドラインを確認してください」と言っても、負担が増えることへの不満が高まる可能性があります。心理的ハードルを下げるために、プロダクト側のインフラに詳しいメンバーを巻き込み共同でレビューしたり、定期的なOffice Hourを設けて気軽に相談できる場を提供したりしました。これにより信頼関係が醸成され、依頼を受けてもらいやすい土壌を作っています。

これからの可能性
生成AIを活用して得た詳細な情報は、プロダクトチームとの自然な話のきっかけを作ることができ、こうした対話の機会を積み重ねることで信頼関係を強化していくことができました。生成AIによって、SREは「情報を持って価値を提供する協力者」に変わることができます。一歩引いたところで依頼するのではなく、しっかりとチームに入り込んで対応することで、SREとプロダクトチームが一丸となって改善に臨めると感じました。

■ 対象聴衆とその人たちが得られるもの
対象聴衆:

  • 複数のOrganizationやアカウントを横断して管理している方
  • 全社のインフラの健全性を保つ仕組みを作りたい方
  • プロダクトチームとの対話に課題を感じている方
  • ガイドラインを作っても形骸化してしまうと感じている方

その人たちが得られるもの:

  • 生成AIをSRE業務に活用する実践的なアプローチ
  • プロダクトチームとの信頼関係を構築するコミュニケーション戦略
  • ガイドラインを形骸化させないための具体的な運用手法

■ なぜこのトピックについて話したいのか(モチベーション)
「ガイドラインを作ったのに思うように運用されない」「プロダクトチームから煙たがられる」こんな悩みを抱えるSREは多いのではないでしょうか。私自身、情報不足から表面的な指摘しかできず、プロダクトチームとの対話に苦労したことがあります。しかし生成AIを活用することで「ルールを押し付ける人」から「価値やヒントを提供する協力者」へと変わることができます。"Challenge SRE!" のテーマにそって、生成AI時代におけるSREの新しい役割と可能性を議論したいと考えています。