拙著「ちょうぜつソフトウェア設計入門」には、「オブジェクト指向の定義はない」と書かれています。
「オブジェクト指向」という言葉は、その普及とともに、当初意図されていた意味を失い、バラバラの概念に好き勝手に使われるようになってしまいました。さらに時が進むにつれて、私は、オブジェクト指向を自信満々に説明したもの(あるいは強く批判したもの)ほどとんでもない大間違いだという状況を、何度も見ることになりました。入門者にとって、先にオブジェクト指向を理解しようとする道は、もはや罠しかない世の中です。
なぜこんな状況になってしまったのでしょうか。西洋の宗教史と近代化になぞらえて、「オブジェクト指向」という用語がどんな経緯を辿ったのかを探っていきましょう。歴史を知って余計なノイズを取り除くことが、入門からさらに踏み込んでいこうとするみなさんにとって、自分の目で本質を見つけるヒントになるのではないかと思います。