au Starlink Directとスマホ/衛星直接通信(D2C)の現在地 〜圏外登山を安全にする取り組みからの共有〜 by muo

BuriKaigi 2026
レギュラー

au Starlink Directとスマホ/衛星直接通信(D2C)の現在地 〜圏外登山を安全にする取り組みからの共有〜

muo_jp muo muo_jp
1

テーマ

本セッションでは、次の内容を紹介します。

  • スマホ/衛星直接通信(D2C)の現状を手早く把握するための通信技術概要
  • AndroidプラットフォームにおけるD2Cの実用実装例。そして衛星経由のSMS送信を多様な端末環境・通信環境(例:dual SIM)で安定稼働させるための工夫
  • リアルタイム位置情報というプライベートな情報を、伝えるべき相手(家族や山岳会)へと適切に届ける工夫
    時間が許せば、StarlinkベースのD2Cを使う際に周辺地形の面で考慮すべき点や、おすすめのテストスポットとスポットの探し方も紹介したいです。

想定する参加者層(前提知識)

4G・5Gといった現代スマホの通信方式について、うっすらと知識がある方を対象とします。
4G(LTE)回線の通信バンドについての事前知識があると内容を聞きやすいと思います。

Android SDKについての知識、Unixシェルの知識があると楽しく聞けると思います。

登山や海のレジャーといったアウトドアアクティビティーに馴染みのある方は興味を持ちやすいと思います。

トーク概要

主要通信キャリアの4G回線の人口カバー率は99.9%を超えていますが、実際の国土エリアカバー率は60-70%と言われています。
日本には山岳部や島嶼部が多くあり、スマホの電波が入らない場所もまだまだ多いです。

投稿者は登山を趣味としていますが、少しマイナーな山へ登ったら登山口からすでに圏外というケースも多いです。

2025年、au Starlink Directサービスの開始により、日本国内でスマホが人工衛星と直接通信(Direct to Cell; D2C)できる時代がついに幕を開けました。
今年2026年にはau以外の主要キャリア各社のサービスも本格スタートする見込みです。

投稿者は、D2Cの可能性調査と実用的なユースケース探索、そして自分自身や友人の安全確保を目的として、主に登山の文脈でD2C回線を使ってリアルタイムに家族へ位置情報を送信し圏外の安全を確保する「AnzenMap」というサービスの開発とベータ版運用を2025年5月から継続しています。
これは、「遭難してから衛星通信で助けを呼ぶ」のではなく、「圏外行動中つねに位置情報を家族へ定期送信し、不測の事態が発生したら最後の消息地点を家族が確実に把握できるようにする」というコンセプトのものです。
山岳で滑落して気を失ったら連絡できない、スマホを谷底へ落としたら連絡できない、雪山でスマホの電源が切れて連絡手段がなくなる、といったシビアなケースも想定し、それでも可能な限りの情報を家族へ伝えるためのセーフティー策といえます。

このなかでは、いくつかのシステム要素へ取り組む必要がありました。

  1. スマホ上で位置情報を定期取得してau Starlink Direct回線経由でSMS送信するアプリ
  2. 圏外の端末からSMS送信した位置情報を自宅ゲートウェイにてデータ変換してクラウドへ載せて家族へ共有する仕組み
  3. 日本上空を飛んでいるStarlink D2C衛星の現在位置をスマホ圏外で把握して「現在通信できそうか」を判断する仕組み
    これらの内容を紹介します。

また、この派生物として、公開されている非公式の衛星軌道情報をもとにして「現在の」Direct to Cell接続可能エリアが分かるマップも作成しました。
https://d2c-map.muo.jp/

実用面について、2025年8月末にはau Starlink DirectがSMS/RCS送受信だけではなくデータ通信に対応しましたが、Androidではごく一部の機種でのサポートに留まる(2025年10月現在)ため、「SMSベースで何が出来るか」という思考・システム運用は依然として重要な要素です。

また、D2C接続は「スマホが地上基地局の電波を掴んでいない時だけ接続される」という特性を持ちます。人里において適切に空が見える状態の圏外を見つけるのは困難であるため、テストも難航しました。

本セッションでは、D2Cの現状を把握するための概要、AnzenMapの開発とフィールドテストから得られた通信特性、スマホアプリ開発上の注意点、周辺地形に関して考慮すべき点を紹介します。
おすすめのテストスポットと、その探し方も紹介できれば、と考えております。