SML#は、Standard MLを包摂する、純国産のフルスケール関数型言語です。本セッションでは、SML#のコア開発者のひとりが、関数型言語とそのコンパイラを開発する者の視点で、関数型言語を作る上での苦悩と工夫をお話しします。
いくら理論が美しかろうと、言語が高機能だろうと、現実に使えなければ絵に描いた餅です。現実に使えるかどうかの判断基準のひとつは、CPUやメモリなどの計算資源の利用効率の高さ、有体に言えば「速さ」でしょう。ラムダ計算に端を発する関数型言語は、今日主流の命令的な計算機アーキテクチャとは計算モデルから異なるため、現実の計算機を効率よく駆動するネイティブコードを出力する関数型言語コンパイラを開発するのは自明なことではありません。その困難を、ときには新たな理論を開発して、ときには力技で乗り越え、今日の関数型言語コンパイラが成立しています。
コンパイル結果のコード(ひいてはコンパイラそのもの)を速くするには、「CPUコアを増やす」「速いCPUを使う」「コードの無駄を省く」の3つのアプローチが考えられます。最新のSML#コンパイラは、これらのアプローチそれぞれについて、「タスク並列を実現するためのガベージコレクション」「ARM対応のための末尾呼び出しコンパイル」「自然意味論に基づく部分評価器」を装備しています。本セッションでは、SML#コンパイラ全体のアーキテクチャを俯瞰しつつ,これらコンパイラの機能の開発経緯とその理論・技術に焦点を当てます。
本セッションに参加することで、「SML#の使い方」だけでなく「SML#の作られ方」もなんとなくわかった気になる、また関数型言語の裏にあるバイナリな部分にも目が向くようになる、そんな発表を目指します。